派遣社員の秘め事  ~秘めるつもりはないんですが~

「なんでも手に入れられる渚を人みたいに羨んだりはしなかった。

 僕は僕だから。

 僕と渚は、全然違う場所に立ってるから関係ないって思ってたのに。

 君のせいで、同じ土俵に立って、自分と渚を見比べなきゃいけなくなったんだ。

 ……ねえ、なんで、今、僕を家に入れちゃったの?」
と脇田が頰から手を離さないまま、訊いてくる。

「すぐに渚が来ると思ってた?

 残念だったね。
 僕が出る前、渚に、会長から電話があったんだ。

 長引きそうだったよ。
 君のことかもね」

「……でも、渚さんは来ますよ」

 脇田の目を見据えて、蓮は言い切った。

「なんで?」

「めちゃくちゃ間のいい人だからです」

「……うん、まあ、それは」
と長く側に居るからこそ、よくわかっている脇田は、頷きそうになる。

「あのとき、駐車場で煙草を吸ってたことだって、単に間がよかっただけだよね。

 いつもあそこなわけじゃないし、君がお使いに出ることもそうなかったんだろうに」

 そう納得しかけたらしい脇田だったが、すぐに、いやいやいや、と言う。