派遣社員の秘め事  ~秘めるつもりはないんですが~

 あの強引さ、いいときもあり、悪いときもありだ。

「人の本性なんてわからないって話を前したよね。

 石井に君が脅されたとき。

 あのとき僕が言ったのは、本当は、石井のことじゃなかったんだ。

 僕は僕のことを言ったんだよ。

 あのときにはもう、僕は自分の気持ちに気づいていたから。

 僕は自分がこんな人間だと思わなかった。

 ねえ、秋津さん」
と呼びかけながら、脇田が頰に触れてくる。

 びくり、と蓮は後ろに逃げた。

 下駄箱に腰が当たる。

「昔から、渚が望んだものは。
 欲しいと言ったものは、全部渚のものだ。

 僕だって、他の会社に就職したかったのに、渚がうちに来いって言ったら、逆らえない。

 なにを脅されるわけでもないんだ。

 渚に望まれたら、嬉しくて、ひょいひょいついてっちゃうんだよ。

 そんな僕が一番、あいつがすごい奴だってわかってる。

 だから、君が、他の男とくっつくよりは、渚とって方が百万倍マシだってわかってるのに……。

 なんでだろうね。
 今回だけは、ちょっと納得がいかない」

 そう脇田は言った。