派遣社員の秘め事  ~秘めるつもりはないんですが~

 



「お呼びですか?」
と顔を出すと、椅子に座った渚が膝を叩いてくる。

「……乗りませんよ」
と蓮は言った。

「犬か猫じゃあるまいし。

 喜んで飛び乗ったりしませんよ。

 御用がないのなら、戻ります」
と言うと、

「まあ、待て。
 ちょっと疲れたから、お前の顔が見たかったんだ」
と言ってくる。

 なに言ってんですか、と言いながらも、悪い気はしなかった。

 赤くなりながらも、
「さっさと家帰って寝ないから、疲れがたまってるんですよ」
と言ってやる。

「そうだな。
 じゃあ、今日から、真っ直ぐ家に帰るか」

 溜息をついて、渚はそう言って見せる。

「……そうですね。
 そうしてください」

 そう言い、出ていきかけて振り返る。

 渚が笑い出した。

「なんだ、そのしょげた仔犬みたいな顔は。

 渚さん、今日も来てくださいって、言え」
と言う。

「結構です。
 さようなら」

「いや、待て。

 お願いです。
 来てください、ご主人様、の方がいいかな」
と渚は真剣に悩んでいる。

 ……阿呆か。

 にんまり笑う渚を放って、
「失礼します」
と頭を下げた。

「あっ。
 こら、蓮、待てっ!」

 扉を閉める。

「おいっ、こらっ!
 お願いしないと、本当に行かないぞっ!」
と中から聞こえた。