派遣社員の秘め事  ~秘めるつもりはないんですが~





「すまんな、脇田」

 オモチャではなかった手錠は結局、外れず、脇田が通勤途中に渚の自宅に鍵を取りに行ってくれた。

「……あの、徳田さんに説明するの、大変だったんですけど」

 っていうか、気まずかったんですけど、と脇田は言う。

「いや、蓮が悪さをしたんで、手錠をかけただけだ」

「悪さをしたのは、貴方でしょうが」
と渚を睨んだあとで、

「すみません。
 脇田さん」
と何故か、蓮が謝る羽目になる。

 いや……、と脇田が微妙な顔をしたとき、渚のスマホが鳴った。

 徳田だろうかと一瞬、緊張する。

 怒られるっ!

『蓮様』
と威圧的に自分を見る徳田の幻を見た。

 だが、違ったようで、渚は話しながら、少しずつ離れていく。

 仕事の電話のようだ。

「そういえば、石井は諦めたみたいだね」

 え? と脇田を振り返った。

「あれ?
 もう忘れちゃったの?
 石井に脅されたこと」

「ちょっと誘われただけですよ」

「でも、石井は結構、本気だったみたいだよ」

「そんなことないですよ。
 すぐにそんなこともあったねって、いい思い出話になりますよ」

「そうかもね。
 でも―― 非情だね」

 えっ?

「いい思い出になんか、僕はならないよ」
と脇田が口づけてくる。

 渚はエレベーターの方を向いていて、見てはいなかった。