「どういう意味でだ。
 蓮は俺を好きなんだ。

 俺と結婚する。
 蓮じゃなく、お前が蓮の家の威光を笠に着てどうすんだ」

「……知ってたんですか」
と蓮が見上げる。

 当たり前だ、莫迦、と渚は蓮の頭を小突いた。

「言っとくけど、持参金はいらないぞ。
 俺がとびきり贅沢させてやる。

 そう言わなかったか」

 蓮が涙ぐむ。

 あーあ、と思った。

 今までで一番の、あーあ、だ。

 過去、蓮に言い寄る男が居たときも、和博さんとの婚約が決まったときも、あの人が現れたときも、まだなんだか蓮の未来は確定していない感じがしていたが。

 もう決定な予感がする。

 この蓮の顔を見ていると。

「お金とかいらないんですってば」
と泣いたまま言う蓮に、

「じゃあ、例のアイス、自販機ごと買ってやる」
としょうもないことを言う。

 ふと思い出していた。

 昔、高校生だった蓮が、中学生になったお祝いにと、帰り道、自販機のアイスを買ってくれた。

 阿呆な姉のような蓮。

 幸せになって欲しいけど。