「稗田社長には泣きつかないの?」
と言うと、

「うう……。
 まだ、渚さんには、なにも言ってないから」
と蓮は言う。

「言っても大丈夫だよ。
 あの社長は、財産目当てとかないと思うよ」

「そんなことわかってるわよ」
と言う、その信頼がちょっと気に入らない。

「まあ、なにかあったら言ってよ。
 僕はいつも、その辺、ふらふら遊んでるからさ」

「ありがとう、未来」

「おい」

 いきなり、エレベーターホールの方から声がして、振り返ると、渚がやってくるところだった。

 こちらにちょっと手を挙げ、
「蓮の下僕、元気か」
と言ってくる。

「友達だよ」
と訂正すると、わかってるよ、とぽす、と頭に手をやられた。

「稗田社長、簡単に蓮と結婚できるとか思わないでよね」

「なんだそりゃ」
と勝手に蓮の部屋のドアを開けながら、振り返り、渚は言う。