派遣社員の秘め事  ~秘めるつもりはないんですが~

 振り返ると、渚が立っていた。

 スマホの画面を見ながら、ほほう、と言う。

「他所の男に電話しようとしてたところだったか」

 どうするかな、浮気の現場を見つけてしまったぞ、と言い出す。

「なに言ってんですか。
 未来じゃないですか」

 もう~と言ったあとで、
「今、いきなり、スマホが上に浮いてったから、UFOにでも吸い上げられたかと思いましたよ」
と言うと、

「お前は相変わらず、阿呆だな」
と言われる。

 ほら、乗れ、と扉の開いたエレベーターに向かい、背を押された。

 鏡の前の手すりに手をかけた渚は笑ってこちらを見下ろす。

「気の利くエレベーターだな。
 二人きりだ」

 意味不明ですが……、と思いながらも、渚の顔を見られて、ほっとしていた。