「……ハートマークがない」
昼になり、立ち寄った蕎麦屋で、大真面目にそう言う渚に、脇田は、天ざるを吹き出しそうになった。
「秋津さんのメール?」
と訊くと、まだスマホの画面を見たまま、渚は、さも深刻な問題について語るように言う。
「普通、恋人に送るときは、もうちょっとラブラブな感じじゃないか?」
「見せて」
と言うと、素直にスマホを渡してくれる。
なるほど。
業務連絡か、という文章だ。
『今日のお昼は、キーマカレーとサラダでした』
……これでは、社食のメニューのお知らせだ、と思っていると、メールが着信した。
蓮からのようだ。
「ああ、ほら、また来たよ」
と勝手に開けては悪いと思い、渡すと、渚は一瞬、それを読んで笑ったが、すぐに渋い顔をする。
うーん、と唸り、こちらに向けてくる。
『渚さんは、なに食べましたか?』
さすがにあれだけではまずいと思ったのか。
誰かに、それはどうよ、と言われたのか。
文章を付け足してきたようだ。



