派遣社員の秘め事  ~秘めるつもりはないんですが~







「なにが、『はい』よ、あんた」

 もう浮気? と後ろから、硬いもので、どつかれる。

 脇田が、じゃあね、と戻っていったあと、ふうー、と溜息をついて、階段に座ったときだった。

 振り返ると、真知子が立っていた。

 息抜きに自動販売機まで来て、たまたま見たのだと言う。

「あんた、なにやってんのよ、脇田さんに」
と言いながら、真知子は横に腰を下ろした。

 缶コーヒーをひとつくれる。

「社長夫人になったらこの恩を返しなさいよ、百万くらいにして」
と言いながら。

 ……高い缶コーヒーだな、と思いながらも、暑かったので、ありがたくいただく。

「今、なにかいけませんでしたか?」

 いつも世話になっているから、たまには脇田さんを励ましてあげなければと思ったのだが。

「いけませんでしょ、あれは」
と真知子は一口飲んで言った。

「あんた若くて、そこそこ綺麗なのに、自分を安く見積もりすぎ」

 そ、そこそこですか。

 まあ、お褒めいただきありがたい、と思っていると、
「ああいうしっかりした人は、あんたみたいなのが意外と好みなのよ」
と言ってくる。