派遣社員の秘め事  ~秘めるつもりはないんですが~

「私は相手のことも考えず、ガンガン行きそうだっての?」

「そうじゃないですけど。
 ……まあ、そういうのもいいかなって最近は思いますが」

 どうも自分は考えすぎる気がするから、と思っていると、真知子は言う。

「うーん。
 なんていうか。
 もうちょっと見極めたいかなって思っただけなの。

 憧れから近づいたら、印象変わったりするでしょ?」

「変わったんですか?」

「まだ変わらないけど。
 変わるかもしれないじゃない」

 あら、と真知子は車の芳香剤を手に取り微笑む。

「これ、石井さんの車のと同じ匂いがする。
 買っちゃおうかなー」

「そうですね。
 匂いって、なんか、いろいろ思い出せていいですよね」

「あら、あんたの口からそんな言葉聞くとは思わなかったわ。
 さては、社長と進展したわね?」

 そんなことはないですが、と笑って誤魔化す。

 雨の匂いは少し苦手だったのだが。

 昨日の一件以来、嫌いでなくなっていた。