派遣社員の秘め事  ~秘めるつもりはないんですが~

「あのマンションの金、払えるのか?
 俺は払わないぞ」
と言ってやると、蓮は、ぐっと詰まった。

 あのマンションは蓮にとって、大事な自立の証のようだと気づいていた。

「ほら、言え。
 『愛してる、渚』って」

 言えるか~っ、という顔を蓮はしている。

「わかった。
 じゃあ、お前の方からキスしてみろ」

「……自決してもいいですか?」

「追い詰められるな……。
 何事もやってみなきゃわからんだろうが」

「偉く前向きな発言に聞こえるけど、違いますよっ?」

 堪え切れなくなったらしい、葉子の笑い声が扉越しにもはっきりと聞こえてきた。