無理やりこの会社に引っ張ってきて、秘書をやらせて、悪かったなとは思っていたが、それでも、自分の選択は間違ってはいないはずだと思っていた。

 脇田も口ではなんだかんだ言いながら、文句はないようだったし。

 もし、嫌なら、自分が引き止めたところで、振り払ってやめるくらいの意志の強さは脇田にはあるから。

 でも……。

「もしかしたら、今度は駄目かもな」
と呟く。

 え? と蓮が自分を見上げたようだった。

 その顔は今は見えないが、声色が心配そうだった。

「いや……なんでもない」

 脇田が思ったより本気なら、ちょっと揉めそうだな、と思っていた。

 自分が蓮に相手にされていないうちは、まだよかったのだろうが。

 本来、天秤にかけるものではないのだが。

 無理やり連れてきた脇田が離反するかもしれないとわかっていて、蓮を手に入れたことで。

 なんだか、脇田と蓮を天秤にかけて、蓮を選んだみたいになってしまったのも問題だろう。

「一回だけ、キスしていいか?」

「はい?」

「そしたら、今日一日、頑張るから」