ほんと、可愛いな、こいつは、と思い、思わず抱き締めると、
「やっ、やめてくださいっ。
 仕事中ですよっ」
と逃げようと身をよじる。

「莫迦っ。
 お前、お茶引っ繰り返るだろうがっ」

「すっ、すみませんっ」

 扉の向こうから、葉子の抑えた笑い声が漏れ聞こえてきた。

 蓮にもそれが聞こえたらしく、しまったー、という顔で赤くなっている。

「お盆、置いてこい」

「は? はいっ」
と慌てて、蓮はデスクにお茶を置き、お盆を部屋の隅の台に置いてきた。

「なんでしょう?」
と生真面目に訊いてくる。

 いや、別に仕事を申しつけようってんじゃないんだが、と苦笑いしたあとで、蓮を抱き締めた。

「いや、ですから。
 仕事中は……」
と言う蓮に、

「わかってる。
 今だけだ」
と言い、逃げられないよう、腕の力を強くした。

 そのうち、蓮も逃げようとするのをやめた。

 蓮の髪のいい香りが鼻先でする。

 学生時代から気が合って、というか、よく俺の面倒見てくれてたな、と脇田のことを思い出す。