ほら、と蓮の胸許にその薔薇を置き、手を取ると、その手の甲にキスしてくる。

 そのままの体勢で上目遣いにこちらを見、
「キスしてもいいか?」
と訊いてきた。

「い、嫌です」
と言ったが、

「いいや、今日はする」
と勝手に決め、蓮の頬に触れると、胸の上の花を傷つけないよう、気をつけながら、口づけてきた。

 やがて、渚の手がビニールに包まれた薔薇の花をラグへと下ろす。

 そのまま上になって抱き締めてくる渚を蓮は押し返そうとした。

「そっ、そこまでですっ」

 だが、蓮の力など、猫が肉球で殴ってくるくらいの威力しかないようだった。

 渚はびくともしないまま、眉をひそめて言う。

「そこまでだって、お前は刑事か、探偵か。
 薔薇三本じゃ気に入らないっていうのか」

 いや、そうじゃなくてですねーっ、と思っていると、
「俺のことが嫌いか?」
と訊いてくる。

「え、それは……」

 答えられない自分にびっくりした。

 好きじゃないです、と言えると思っていたのに。