ああでも、この人、さっさと結婚して、私に子供を産ませたい人だったかと、ときめいてしまった気持ちに自分で水をかけて、冷静になろうとした。

 だが、所詮は渚の膝の上、いまいち冷静には成り切れない。

「あのっ、仕事中は膝には乗せないんじゃなかったんですか?」
と逃げようと身をよじってみたが、渚の腕ががっちりと腰を押さえ込んでいる。

「そう。
 俺の主義に反して、やってみた」

 そう言いながら、こめかみに口づけてきた。

 や……

 やめてくださいーっ、と慌てて、渚の肩を両手で押して逃れようとしたが、
「待て。
 動くな」
と渚が冷静な口調で言ってくる。

 動いたら、爆発するぞ、くらいの迫力があった。

 何処に爆弾が、と阿呆なことを考えていると、渚はそのまま椅子を回し、デスクに向き直ると、パソコンを打ってみていた。

 手を止め、
「……打ちにくい」
と呟く。

「昔の社長は、よくこんな体勢で仕事してたな」
と大真面目に言ってくる。

「……ほんとにそんなことやってた人、居るわけないじゃないですか。
 物の例えですよ」

 この人、賢いんだか、莫迦なんだか、ときどきわかんなくなるな、と膝の上に乗ったまま、蓮は思っていた。