「そしたら、いちいち、俺に今日は家に居ろよ、とか言われなくて済むだろ?」

「それ、結婚したら、家に居なくてもいいって話ですか?」

「莫迦。
 結婚したら、居て当然だから、いちいち確認しないって意味だよ」

 蓮はお盆を手にしたまま、眉をひそめる。

「貴方は、結婚したら、奥さんを家に縛り付けるタイプの人ですか?」

 そういう人とは絶対無理だな、と思いながら言うと、渚は、
「そうじゃない」
と言い、蓮の腕をつかむ。

 強く引かれ、よろけた蓮は、渚の膝の上に腰を落としてしまった。

 渚の顔が間近にあって、どきりとする。

 だが、こちらが赤くなっても、渚の表情が変わらないのがムカつくところだ。

 これでは、自分の方が渚を好きみたいではないか、と思う。

「結婚したら、お前が出かけてても、俺が遅くに帰っても。
 最終的には、お前は俺の家に居るんだろ?」

 そりゃまあ、そうですが、と思っている間に、渚の妄想の中での結婚生活は進んでいた。