「失礼します」
と社長室に入った蓮は、湯呑みが倒れてもパソコンにかからないよう、渚の広いデスクの隅に置いた。
仕事をしながら渚は頷く。
誰が持ってきたのかもわかっていないんじゃないかな、と思いながら、ちょっと笑ったとき、渚が顔を上げないまま言ってきた。
「今日も行くからな。
逃げるなよ」
えー、と蓮は眉をひそめる。
「あのー、たまには、お友達と遊びに行ったりとかしたいんですが」
よく考えたら、この人に私生活を仕切られなきゃならない理由もないんだが。
そう思いながらも、蓮は訴えてみた。
「いいぞ、行ってこい」
ノートパソコンから目を上げずに、渚は言ってくる。
「えっ、ほんとですかっ」
喜ぶとこでもないような、と思いながらも、喜んだ。
だが、渚は、
「俺が行くまでには帰れよ」
と言う。
無言になると、渚は、なんだ? とようやく顔を上げて、こちらを見た。
「どうせ、俺が行くのは遅い時間なんだから、問題ないだろう」
いや、まあ、そうなんですけどね、と渋い顔をしていると、渚が笑って言う。
「そうやって縛られるの、めんどくさいと思ってるだろ」
「はい」
と素直に答えると、
「じゃあ、俺と結婚したらどうだ?」
と言ってくる。
「はい?」



