派遣社員の秘め事  ~秘めるつもりはないんですが~

「わーっ。
 すっ、すみませんっ」

 渚の指の間から血が滴っていた。

 口が切れたようだ。

 ゆっくり渚が手を離すと、下唇の内側が赤紫になり、血が滲んでいた。

「うわーっ。
 親戚のおにいちゃんの子供が考えなしに突っ込んでって、テレビ台で口を切ったときみたいですね」

「……お前、微妙に俺を批判してないか?」

 いえ、そんな、と苦笑いしながら、立ち上がる。

「え、えーと……絆創膏。
 絆創膏」
と救急箱を探していると、後ろで、

「口の中に貼れるかっ」
と渚が叫んでいた。