派遣社員の秘め事  ~秘めるつもりはないんですが~

「あっ、えーと、ほらっ。
 私、貴方を好きだとか言ってないですしっ」

「好きじゃないのか?」

 その目で脅さないでくださいっ! と腰を捕まれられたまま、上体をそらし、逃げかかる。

 脅迫するように近づく渚の顔から視線をそらし、
「いや、あのですね……。
 好きとか、好きじゃないとか。

 ちょっと考える暇もなかったというか」
と言うと、

「好きとか好きじゃないとかって、頭で考えることなのか?」
と最もなことを言ってくる。

 そ、それは確かにそうですね、と納得してしまった。

「わかった」
と言った渚は、ひょいと蓮を抱き上げ、ソファに下ろすと、

「今日は帰る。
 お前に、明日までの宿題だ。

 俺を好きかどうか考えておけ」
と言ってくる。

 蓮は渚を見上げ、訊いた。

「え……えーと。
 それで、好きじゃないって結論が出たら?」

 渚はこちらを見下ろし、
「そしたら、またあさって、来るから。
 それまでに考え直しておけ」
と淡々とした口調で言ってくる。

 怖いよ……。