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『あれ?』
「ん?わかんねぇとこ出てきた?」

彼女のつぶやいた声が聞こえて、俺はさっきの延長線だと思い、そう問いかけた。

考え事をしていた俺は、ただ開いていただけの参考書から彼女へと視線を移す。てっきり自分の解いているワークを見ていると思ったのに、なぜか彼女の視線は俺の右手に注がれていて…

『どうかした?」
『先輩って、左利きですよね?でも今もさっきも右手を使ってるから…両利きなのかな…?』
「え?」
『スマホとかストローを使う飲み物を扱う時は左手ですよね?あ、…あと自動販売機のボタンを押すのも』

それは俺が普段自分でもどちらの手を使うとか意識していないことで、それを彼女が指摘してきたことに驚いた。

「よくわかったな。
自分では別にどっちを使うとか考えたことねぇし、その時々で自然と使い分けてんのかも。だから“両利き”になんのかな」
『わぁ…凄いですね』
「初めて言われたよ。
…まぁ七聖は気づいてると思うけど、あいつとは付き合い長いしな。
だから月瀬さんに言われて驚いた。
観察力?凄いじゃん」
『………観察力…』

その単語を繰り返して突然黙った彼女がちょっと複雑そうな顔になる。

「?」

彼女をうかがうように俺は首を傾げたけど…

『………………』
「月瀬さん?」

それでも黙ったままの彼女に俺は声をかけた。

『………先輩…ひいてませんか?』
「え?何で?」
『だって………観察って………ストーカーみたい……』

その思いがけない単語が彼女から出て、俺は思わず吹き出した。

「ブハッ。ストーカーって」
『………………』

不安そうにした顔で彼女が上目使いに俺を見上げてくる。


"可愛いなぁ。もう"


「ひいてねぇし、そんな風にも思ってねぇよ。
むしろ、月瀬さんにだったらストーカーされてもいいけど。どぉ?」
『なっ……しません』

俺の誘い文句?に彼女の目が一瞬丸くなったあと、プゥッとむくれた顔。
ころころ変わる表情が愛らしい。


"マジで可愛い"


「ごめんごめん。
でもそう思えるほど嬉しかったからさ。

………これからも……見ててよ俺のこと」

彼女の目を見つめながら懇願とも言えるアプローチを俺は久々に仕掛けてみた。


"遠回しだし、気づかねぇだろうな……"


そう思ったのに、

『先輩のこと見ててもいいんですか?…私のことも見ててくれますか?』


"!!"


少し恥ずかしそうにそう言った彼女の今の言葉は俺に対しての好意と受け取ってもいいんだろうか……

トクントクンッと徐々に早まる鼓動が俺の全身に熱を巡らす。

無自覚に俺を刺激してくる彼女には困るけど、今の俺に出来る精一杯の愛の言葉を俺はささやいた。


「ん。見てるよ。だから俺のことも見てて」


彼女が俺のその言葉にふわりと笑ってくれた。