室内に重い沈黙が漂う。
 桜さんの溜息が響く。
「もしかしたら、11年前のことも調べる必要があるみたいだな…」
「あぁ。この事件、やはり一筋縄ではいかないようだね」
 色々な憶測と事実が脳内を飛び交う。
「11年前、去年、そして今年…。規則性がありませんね…」
「規則性ならあるよ?」
「え…?」
 零さんが私の言葉に対して言った。
「去年の事件はその前の事件から丁度10年前だ。もし、仮に去年の事件…彼らに言わせれば儀式とも言えるそれが失敗していたとしたら…?」
「場合によってはやり直す事がある」
「そういうことだ。流石、桜。やるねぇ」
「…そっか。じゃあ、今年の事件は10年ごとに行われている儀式のやり直しってこと…?」
「そういうことになるな」
「儀式ってやり直していいんですか…?」
「奴らの考え方では、成功する事が大切で、やり直しは大丈夫だとか」
「最悪だな。人の命を粗末に扱うなんて…」
 桜さんの怒りのこもったその声はserverだけでなく、他の沢山の何かにも向けられていた。
 ぶっきらぼうな言い方はその怒りをさらに大きくしているように思う。
「10年ごとの儀式…。そこから調べるべきでしょうか」
「いや、やめた方がいい。調べるなら潜入捜査しか無い。潜入捜査に慣れている奴はこの科には少ない。それに何より、潜入捜査となると命を落とす危険性があるからね。俺ですら何度も死にかけているし、出来れば俺もやりたくない」
 そう言いながら周りを見回しつつ、メモに文字を書き込んでいく。
 達筆なのか、汚いのか分からない字だか読めなくは無い。最初の文を目で追って直ぐに口を閉じた。

"声に出して読むな.この部屋には隠しカメラ、盗聴機が仕掛けられている.カメラは物の移動を装って隠したが盗聴機までは防げない.だからこういう相談は俺のもつセーフハウスでしよう.そこなら誰も知らない.あと、ここでは潜入捜査に否定的な態度を今は取ってくれ."

 いち早く読み終わった平賀先輩が零さんの言葉に応じるように言った。
「…そうですね。潜入捜査は特に危険を伴いますからね。それよりも普通に捜査を行うべきでしょう」
「そうだな。僕も零と平賀さんに賛成だ。零を危険な目に合わせたくないし」
「私もよくよく考えたら潜入捜査なんてしたことないですし、無理ですね。あと、もう少し生きたい」
「最後本音入ったな…」
「さ、桜さん!気のせいですよ!」
「えぇ?はっきりと聞こえたんだけどなぁ?」
「そんな事言ったら私だって聞こえましたよ!桜さんがボソッと”零をk”」
「言ってないけど!?そんな事言ってないもん!」
「私、まだなんて言ったか言ってませんよ?」
「あぁぁぁ!」
 私達のやり取りに平賀先輩と零さんが噴き出した。
「「そんなに笑わなくてもいいでしょう(だろう)!」」
 と、声をそろえるとまた笑われた。
 私と桜さんは顔を見合わせてお互いの真っ赤な顔に笑いあった。
 笑いが新たな笑いを呼び、しばらく笑い声は止まなかった。

「はぁはぁ…ふぅ。よし。そろそろ資料のまとめを再開しようか」
 涙目になりながら、零さんが言った。
「はい。早く終わらせましょう」
「そうだな」
「はーい!」
 平賀先輩、桜さん、私の順に三者三様の返事をして、作業を始めた。
「なんだか、久し振りにここまで笑いました」
「ほんとだな。桜と美琴ちゃんのおかげだ」
「だから、ちゃん付けやめてください」
「零も飽きないな」
「酷いなぁ」

 これが、この楽しい日々がずっと続けばいいのに。
 そう思いつつ纏めるべき資料に手を伸ばした。