「きれいだね」

「散らかってるだろ?」

「ううん、雰囲気が…きれい」

「そう?」

よくわからない……

お茶でも出そうか?と訊いたけれど早くピアノが弾きたい、と断られた。



「曲は……どうする?」

「なんでもいいよ?」

なんでもいいって言われてもな……

「うーん……じゃあ……」

「あ、でもあんまり暗くないのがいいかな……なんて」

暗くないのか……あ、あの曲は……どうかな?

「花のワルツは?」

「春? 今は秋だけど……」

「なんでもいいって言ったじゃん?」

「別に嫌ってわけじゃないからね?
ただ……その秋なのに春って不思議だから……」

秋はキミと離ればなれになってしまう、別れの季節

そして春はキミが僕を見つけた、出会いの季節



僕はキミと再び出会うことを願って弾く。

だからこの曲を選んだんだ。

「弾ける?」

「もちろん。曽川君と連弾するために春から連弾曲ばっかり弾いてたんだから!」

「ほんとに?」

「ホントだよ」

口をとがらせるキミ

「ごめんごめん
……じゃあ、始めようか?」

「オーケー」

そっと僕らはピアノに指を置く

そして滑らかに、軽やかに

奏で始めた。



僕らにしかできない曲を

きっと今だけしか聴くことのできない曲を



サヨナラを、恋心をのせた曲を……