優しく笑う君に、少し意地悪をしたくなった。
俺は、君みたいに優しくはないから。
我ながら、酷い奴だなと思う。
そうしたら君は笑って「聞かない」って言った。
変な子だと思ったよ。
でも、やっぱり優しい子だなって。
普通だったら気になるだろうな。
夏休みが始まる前日、いわゆる一学期の終業式の日に転校してくるなんて。
教室出る前にも、何人かに聞かれた。
けれど、俺は答える気など微塵もなかった。
答えたところで、周りから引かれることは確かだ。
あんな事、思い出したくもないし、口に出したくもない。
君は…、君だけは違ったね。
意地悪した俺に、君は笑ったね。
あの言葉に、どれだけ救われたかな。
話を変えた君は、話してて楽しくなる話を沢山してくれた。
好きな食べ物、嫌いな食べ物。好きな季節。好きな事。
学校から少し遠い細道を、君は猫みたいに身軽に通った。
ふいに君が言った。
「好きなものの話をしてるとね、幸せな気持ちになるんだよ」
本当だね。
俺、今幸せだと思ってる。
こんなにも、あったかくなるんだね。
無理矢理、理不尽な理由をつけて、君の番号を聞いた。
あの時恥ずかしくて、君の顔を見れずに下を向いたんだ。
「いいよ」と笑う君。
嬉しそうに携帯の画面を見る君。
だから、もう少し頑張ってみようと思った。
名前を呼ぶと、君が満面の笑みで笑った。
恥ずかしくて、でも嬉しくて。