そして、少し歩いた先で。





「お?」



賑やかな、でもどこか調子はずれな音楽が聞こえてきた。






その音の方へ足を進めると、森が一部開けた場所にでた。




その場所には、異常に長いテーブルと、それを囲むようにまばらに置かれた椅子。





テーブルの上にはいくつものお菓子やティーポット、ティーカップ。







新しいお菓子を、食べ終わった食器の上に重ね、時にそれは食べ終わっていないものの上にも重ねられる。





それを片付けるのは1日1度。




なにしろこのお茶会には終わりがないらしいから。







そのいろんな意味で異常なテーブルの真ん中辺りに座る三つの影を見つけた。




「やぁ、アリスにチェシャ猫くん。元気かな?」



私たちに気がついたその影の1人が柔らかく笑いながら問いかけた。




暗い緑色を基調としたシルクハットに、それに合わせた薄手のコート。






そのどちらにもおかしな飾りがついている。




茶に近い、少しウェーブのかかった長めの黒髪。




その長い前髪と深く被ったおかしなシルクハットのせいで今は顔がよく見えない。





が、実は色気のある綺麗な顔をしていることを私は知っている。







彼の本当の名前なのか、それとも呼び名なのかは定かでないけれど、みんなは彼をマッドハッターと呼ぶ。








「そうね、相変わらず」





私は、少しの皮肉を込めて答えた。






「ははは!!!、そりゃあいい!相変わらずと言ったら変化がないこと!!変化なんてあったら人間が変わっちまう!!」





と、ゲラゲラ楽しそうに笑ったのは茶色いうさぎ耳をゆらす、三月兎。




その動きに合わせる様に身につけたボロボロの服が揺れ、短く、バラバラに斬られた髪も揺れた。







三月兎…彼女は、女とは思えない、おっさんくさい口調で話すため、時々錯覚を起こす。





そして自分を俺と呼ぶのもいただけない。






もっとも、ここに来て最初は三月兎を男だと思っていたのだけれど。





「うるさいなぁ……も……………う〜!?」





ゲラゲラと笑う三月兎の声に、ハッターの隣に腰掛け眠っていた男性が顔を上げる。





気だるそうな色白の男性。



その色に合わせたかのように、髪の色も薄かった。





そして彼は、私の隣に立つチェシャを見て白い顔を青白くさせた。



まぁ、無理もないか。



「おはよう、ドゥー。よく眠れた?」




彼はドゥーマウス。



ネズミなんだから。





「……そうだ、ね。アリス。……良い夢ついでに、寝起きも良かったらいいんだけどね」




私の質問に答えながらも、その目はずっとチェシャを捉えていた。