「で?」







心配そうな白とわかれてからチェシャが向かったのは、城横の暗い森だった。







「………なんで森なのよ……」






実をいうと、私は森が苦手だ。







森がというか、この森が。




だって不気味なんだもの。






ドアが直でついてる木があったり、めっちゃ変な花が話しかけてきたり、いたるところに何を指してるのかわからない矢印の看板があったり。





何より嫌なのが。







「ここはイモムシがいるじゃない………」





イモムシといっても、普通のうねうねしたあれではない。





いや元はそれなんだけど。





アブソレム。







それが彼の名前なのかは定かではないけれど、みんなからそう呼ばれてるのは事実だ。






そして、その彼を一言で表すなら。







無駄に頭のいいイモムシ。





としかいいようがない。







そのせいで屁理屈はすごいし、かと思ったら打たれ弱いというか……。





とにかく扱いづらいのが彼だ。







「なに、アブくん苦手なの?」





アブソレムをアブくんと呼べるのはチェシャだけでしょうね。






私の手を引きつつ、くるっと身体を反転させて私に顔を向けるチェシャ。






後ろ向きなのにその足取りに不安定さはまったくない。






「苦手というか………まぁ、苦手かも。彼、私が何をしてるのかもお見通しなんだもの」







例えばリンゴジュースの件。





私はいろんな動物を人にしてはいたけれど、まさかこのイモムシまでが人になるとは思わなかった…。





というか、会わなすぎて存在を忘れてたんだけど。





なのに、この暗ーい森を偶然通りかかったとき、彼が草むらからひょっこり現れて。






『面白いモノを作っているらしいな』と、話しかけてきたのだ。





もちろん、存在を忘れてたから私が言っているはずもなく。





「あー。森はあの人の耳も同然だからね。誰かが森で話してりゃアブくんにも伝わるさ」







なんてことのないようにニヤニヤと笑ってくれるけれど。





「気味が悪いじゃない」




「なに、この国のヤツらはみーんな気味が悪いじゃん?俺だって例外じゃない」





でしょうとも。





それはごもっともだ。





突然霧のように現れては消える猫男なんて、不気味以外の何物でもない。






「そうね、そうだったわ」





じとっとした目で、真顔で返すと。





「ひでぇ」




と言いつつ、チェシャはケラケラと笑っていた。














「耳障りな声がすると思えば………お前か、チェシャ猫」





突然、後ろから声が聞こえてビクンとなった……のは私。






慌てて振り返るけれど、そこには誰もいない。






………………ゆうれ……。







「こっちだ、馬鹿者。上だ」





馬鹿?





イラッとして上を振り仰ぐと、私の身長よりも高いところにある木に、開いた本を顔の下半分に乗せ、寝転がったイモムシがいた。






そう、こいつだ。






アブソレム。





彼は眠そうな半開きの目をこっちにむけていた。





「アリス。さっさとその猫をここから連れていけ。読書の邪魔だ」






そう言って本をめくるアブソレム。






襟足が長めの黒に近い紺色の短髪。




身にまとっている衣装は、その髪色に合わせて紺色。






半開きの黒目はいつ見ても眠そう。