そしてウサギに手を引かれること数分。






目に痛いほどの赤を抜けた先には、大きな城の入口、そこから視線を右にずらしたところに、長テーブルがあった。





長テーブルといっても、ハッターの所にあるような、クレイジーなほどの長さでなく、まだ私の許容範囲の長さ。





そのテーブルの端に、いくつかのティーポットが置かれ、その近くに、タルトやマカロン、スフレなどが並べられていた。





そんな甘い物の奥に、凛と背筋を延ばして座っている女性。






深紅のドレスには、これまた真っ赤な薔薇の装飾がこれでもかと施され、長い黒髪は綺麗にカールされていた。





その顔は元から美しいけれど、瞼に乗せられたアイシャドウや、真っ赤な口紅がその相貌を彩っていた。





歳は、聞いたら首が跳ぶから聞かないけど、私の目測だと30いってるか、いかないか。





それでもやっぱり若いというか。




そんな美しい彼女は、眉間にシワを寄せ、唇を開いた。





「なんなのだ。さっさとやれと言うておろう?それとも主の首も要らぬと申すか」





と、凛とした鈴のような声で吐き捨てた。




その目線の先には、斧のようなものをもった兵士らしき人と、コック帽を被った男性。





おそらくあれがウサギの部下だろう。






可哀想に、震えている。





ごめんなさいね、私は代わってあげられない。




命がおしいもの。





と、無慈悲に哀れみの目を向けていると。





「女王様、アリスが訪ねていらっしゃいましたよ」


と、ウサギがニコニコ声をかけた。





まてこら。



訪ねてはない、引っ張られたの。





決して望んできてはいない。






そんなツッコミというか訂正を心の中で入れている(声に出したら首がry)と。







ちら、と赤い女性……女王様が私を見た。




そして一泊の後。





「おお!!アリス!!可愛い私のアリス!全く、しばらく姿を見せんで心配しておったぞ」




と、女王様からさっきの低い声からは想像もつかないレベルの声がでて、彼女はニコニコと無邪気な笑顔を見せた。







「ちこうよれ。一緒にティータイムとしようぞ」






どうも今日はお茶に誘われる気がする。




ろくでもない場所で。







「え、えぇと……女王様、あの…」




「ん?」



しどろもどろにチェシャ猫のことを伝えようとしていると。





「……猫か。わらわは犬派なのだがなぁ。まぁよい、アリスの飼い猫ならば許そうぞ」





と、ぶつぶつ呟きながらも、女王様は私たちを手招いた。





そして2人とも女王に近づき、彼女が示す席につく。




そんな私を見て満足そうに頷いた彼女は、ふと視線をそらして。






「……おや、まだおったのか。もうよい。お主よりアリスの方が大切だ、まだ首が繋がっている間にブリオッシュを持ってこい」






と、無表情で、無感情な声で告げた。




それを聞いたコック帽の男性は、ガバッと顔を上げて「す、すぐにお持ちしますっ!!」と走り出した。






首が離れなくても怖いもんは怖い。





わかるよ、その気持ち。







と、心の中でうんざり憂鬱になっていると、女王様は私に笑顔を向けた。







「のぅ、アリス。主はどの茶葉が好きか?アールグレイ、ダージリン、アッサム、何でもあるぞ」





と、親切に聞いてくれるのは嬉しいのだけれど。




ナンデスカソレハ。







あーるだのも、だーなんちゃらも、あーさむも知らん。









「えっと…私よく分からないのよね」




「ふむ?そうなのか…そうじゃな、ミルクティー、ストレート、レモンティーくらいならわかろう?」





まぁそれくらいなら…。






というか紅茶ってミルクかストレートかレモンかの違いしかないと思ってました。







世の中の紅茶好きさんすみません。







「そうね…ミルクティーが好きかしら。うんと甘いヤツ」






無理に笑顔を作ってから言うと、女王様は満足そうに笑った。





「そうじゃな、わらわもミルクティーは好きだぞ。ではそうじゃの………アッサムがよいのかの?」





といいつつ彼女はたくさんあるポットから一つを手に取ると、ゆったりとカップに注いだ。





そして、香りを確認してから、ミルクとともに私に差し出した。





その行動に私はわずかに驚いている。






だって、お嬢様とかは執事とかメイドとか、使用人が注ぐものだと。




それに加え、彼女は女王様だ、尚更ではないのか?






………………イメージだけどね。






そんな私の疑問を感じ取ったのか。




「こういったものはその都度気分で入れるものだ。毎回それに応えられぬ部下の首を跳ねているのではイライラしてしかたないからの」




なんていうか。





考えているんだなーとか思うけどさ、複雑な気持ちがぐるぐると。





と、私がのそのそと考えを巡らせつつなんて答えようかと迷っていると。






「アンタって変だよな」





と、私の向かいの席に座るバカ猫がぶちかました。