会長が娘の生んだ男子に後を任せたいと言う気持ちは優也には十分理解できていた。孫である茜が産む男子よりは美佐の子どもに期待するのは当然の事だ。だから、優也も美佐との結婚を望んでいたし美佐との間に後継者を儲けたいとも考えていた。

 それに、なんといっても美佐は大人の女性で恋愛対象になるには十分申し分なかった。茜ではそんな対象にはならずまるで里子でも預かっている気分にしかならなかった。

 だから何度も会長へ美佐との縁組を申し出たのに会長はとうとう茜との結婚を命令した。但し、茜との結婚を条件に優也にとっては有りがたい権利を与えると言うおまけ付きで。

 茜と結婚し後継者を儲けることが会長側の条件ではあるが、その条件さえ満たせば優也にも経営者側の一族の一員として経営に関われる立場を約束してくれたのだ。とは言え、光一の様に舞阪の名前を名乗れるわけではなくあくまでも黒木の姓のままだ。


「いやぁ、これで私も安心できる。美佐に男子が生まれれば後継者として育てられる喜びが出来るし、茜にも男子が生まれればその後の会社は安泰というものだ。なあ、黒木君、茜はまだその予兆はないのかね? 吉報をまっているんだがな。」

「いえ・・・まだ、残念ながら・・・」


 優也と茜の間に何も起こるはずはない。まだ二人はキスどころか手を繋いだこともないのだから。