茜の為に旅行に同行することを決めた美佐だが、平日の旅行など会社勤務している父親の光一が一緒に行けるわけがない。


「分かりました。でも、あの人は無理かも知れないわ。仕事が休めるかどうか。」

「構わないよ。君が一人で来ればいい。その方が茜も母親に甘えられて嬉しいだろうから。その間、俺は遠慮させてもらうから気にしないで欲しい。」


 美佐は、どんな経緯であれ今は娘の夫となった元自分の求婚者には深く立ち入りたくないと感じていた。優也の言葉一つ一つが美佐には心が痛く感じた。




 そして、いよいよ、新婚旅行当日。


「お母さん! 準備出来た?」


 優也と一緒に実家へ迎えにやってきた茜は家族旅行が出来るとそれはかなりの悦びだった。

 きっと、こんな風に家族で出かけることなどこれまでなかったのだろうと思えた優也の顔には笑みが溢れていた。


 優也は美佐たちの荷物を運ぶのを手伝おうとしたが、玄関に置かれた荷物は小さ目のバッグが一つだけだった。荷物の少なさに、やはり夫の光一は仕事を休めなかったようだ。



「光一さんはお仕事ですか?」


 玄関へとやって来た美佐を見て優也はすかさず聞いた。


「え・・・ええ。」


 明らかに美佐の表情は冴えなかった。優也から目を逸らすと気まずそうな顔をしながら美佐は、靴を履くと荷物を運び出そうとした。優也はその荷物を美佐から取り上げると自分の車へと運んで行った。


 荷物を運ぶ後ろ姿の優也を見ていると、美佐は足が震えだしそのまま玄関に座り込んでしまった。自分に何度も求婚した相手が娘の夫となり一緒に旅行へ行くなど信じられない思いだった。


 そこへ、何も知らない茜はかなりの上機嫌でスキップするようにやって来た。