「あの、おじいちゃん、まだ結婚は早すぎない? まずは婚約して私が高校を卒業した後に結婚でも良いと思うの。」


 相手が誰であろうと茜はまだ結婚する気にはなれなかった。舞阪商事(株)の会長の孫なだけに政略結婚からは逃げられないとは思っている。それでも、せめて高校を卒業するまではと懇願した。

 しかし、茜の願いは聞き入れられなかった。


「お前の母親の二の舞を演ずるのは勘弁して欲しいのでな。」

「.....はい」


 茜の母・美佐は16歳の時に、茜の父・光一と恋人関係にあり二人が親密な仲になると直ぐに茜が生まれた。
 
 茜は母親が16歳の時に産んだ娘なのだ。祖父は一人娘だった美佐には後継者となるべく男との政略結婚を考えていたが、その前に光一によってその夢は打ち砕かれてしまった。

 そのような過去がある為に茜には16歳になったと同時に祖父のお眼鏡にかなった人物と結婚させるというものだ。

 事情は全て理解している茜は祖父への反抗は許されないと分かっていた。

 だから、渋々と置かれたペンを手に取り婚姻届けに自分の名前を書いていく。