ホームに並ぶ人の合間を縫って、葉村くんの背中を追いかける。

同時に、後ろから電車の近づいてくる音がして、私は足を速めた。

そして、あと少しで追いつく、というところで、心臓がどくんと音を立てる。

葉村くんの様子がなにかおかしいのだ。

姿勢が良いままの彼は五十メートルほど後方に迫る電車をちらりと見ると、黄色い点字ブロックよりも前に一歩踏み出す。

その横顔は少し微笑んでいるようにも見えて、胸がざわめいた私は思わず叫んでいた。


「――葉村くん!」


はっとしてこちらを振り向いた彼は、私の姿を見つけると動揺したように視線を泳がせ、数歩後ずさった。

私はそんな彼のもとに駆け寄り、停車した電車のドアが開いたのを横目に、乱れた呼吸で問いかける。


「いま……何しようとしてたの」


葉村くんはふい、と私の視線をかわして、明らかに無理した笑顔を浮かべる。


「……別に、何も」


そして先に電車に乗り込んでしまう彼を追いかけた私は、強引に隣に並んでつり革をつかんだ。


(何も……っていう顔じゃないよ)


ゆっくり動き出した車内で、葉村くんは目の前の車窓をぼんやり見ながら口を開く。


「ねえ、佐々木さん。その手に持ってるやつ……ルカにあげるの?」

「え……?」