「……やろう、ルカ」


覚悟を決めたように、凛とした声で葉村が言う。


「ああ」


小さくうなずいた俺は右の手のひらを彼のちょうど心臓のあたりにかざして、そっと目を閉じた。


――俺は今から、“葉村理久”の肉体をもらう。それはキナコと生きていくために、キョウさんと考え抜いた方法だった。

葉村理久には“生きたい”という意思がほとんどなく、たとえ俺がこの話を持ち掛けなくても、いずれは自ら命を絶とうとしていただろう。

だったら、どうしてもこの世に未練があり、生き返りたいと切に願っている俺が、葉村理久として生きてやる方がいいに決まっている。


「う……っ」


俺は小さくうめいて、屋上の床に手と膝をついた。

自分でない者の肉体に入るのは、想像以上にエネルギーを消費するらしい。身体が妙に火照って、息も上がっている。

床にぽたぽたと落ちる、汗の雫。

そこにかかった影の形は、明らかに“ルカ”ではなかった。


(影……ってことは、成功して……)