そんな俺を、葉村はなぜだかくすくすと笑った。感情の読めない笑みが薄気味悪い。


「……やっぱり、思考を閉じちゃえば聴こえないんだね。僕の考えていること」

「え?」


(どういう意味だ……? そういえば、さっきからこいつの考えていることは一切読めないけど……)


静かに対峙する俺たちの間に、冷たい風が吹き抜ける。

その風にさらわれて葉村の前髪がなびき、そこから覗いた瞳がぞっとするほど暗く濁っているのを目にした俺は、自分の胸がどくん、重たい音を立てるのを聞いた。

葉村は虚ろな瞳で俺を見て、それから不自然なほどにこりと穏やかに笑った。


「……ゴメンね。最後に、ちょっと意地悪したくなっただけだよ。佐々木さんが好きなのはきみだから、大丈夫」

「じゃあ、なんで、そのチョコ……」

「脅し――、みたいな感じで無理やりもらっただけ。それくらい、許してよ。……ひとつくらい、いい思い出を抱いて死にたいんだ」


諦めと悲しみだけが色濃く滲んだ言葉が、俺たちの間に落ちる。

俺はこの先に待っている葉村理久の結末を今さら再確認させられたような気がして、何も言い返せなかった。


(でも……彼自身が望んでいることだ。もう迷うな。俺は、キナコと生きたいんだ。……ふたつの命が入れ替わるくらい、どうってことないだろう……?)