(……いない)


七クラスある教室全部を覗いても、葉村の姿はなかった。

それどころか、どうしてかキナコもいない。

いくら北高の制服を着ているからと言って、生徒との関わりは避けたいものだけど、誰かに聞いてみるしかないのか……。

そう悩み始めた矢先に、廊下の反対側から歩いてくる葉村の姿が見えた。

彼の手には、バレンタインチョコレートとしか思えない薄水色の紙袋がぶらさがっている。


(……意外だな。誰にもらったんだろ)


廊下の途中で立ち止まり葉村を待っていると、顔を上げることなく近づいてきた彼は、すれ違いざまにぼそりと暗い声を落とす。


「ルカ……遅くなってごめん。屋上、いこう」

「あ、ああ……」


そのまま俺よりよっぽど幽霊のようにどんよりとした様子で階段に向かう葉村の背中に少し違和感を感じたけど、それを解明している時間はない。

雑念を追い払うように首を振り、葉村のあとを追いかけた。