(早くしてよ、帰ったらまたチョコ作りの練習したいんだから)
不満が顔に出ないようにしながら、静かに彼の出方を窺っていると。
「……その目、誰かに似ていると思ったが、去年までここに通っていた持田という男子生徒だ。そういえば、彼はいつもきみを見ていて上の空だったな」
「え……?」
持田って……持田遥くん、つまりルカのことだろうか。
須藤先生は腕組みをしたまま、記憶を思い返すようにして天井を仰ぎながら話す。
「私はこの仕事をもう十年近く続けているからな、生徒の目を見ればわかるんだ。きみは、私とこうして話しているのが煩わしいと思っているだろう」
どくん、と過剰に心臓が飛び上がったけれど、それを悟られないよう必死でかぶりを振った。
「そんなこと……!」
「いいんだ。私の力不足ということだろう。持田もそうだった。私のことを暑苦しい奴だと敬遠しているのが手に取るようにわかった。それでも、彼をその気にさせたくていつも気にかけていたんだが……まさか、交通事故に遭ってしまうとはな」
沈痛な面持ちで、須藤先生はため息交じりに語った。
(先生も知ってたんだ……そうだよね、塾にも連絡くらいいくか)
どうして私は当時のルカのことを知らないんだろう。
生きているルカ……遥くんに会いたかった。話がしてみたかった。
そう思うのは、ルカと出会った今だからなのかもしれないし、今さらもう遅いってわかっているけれど、時間が戻れば……と思わずにはいられない。