俺に見られたくない料理。

この甘い香りは、おそらくチョコレートだ。それも、苺の。

そして親の目を盗んで、こんな変な時間にひとりで台所に立っているキナコ――。


(そっか……もしかして)


俺はゆっくりとキナコのほうに近づいて、後ろから彼女をふわりと抱きしめた。


「……コレ、俺の?」


銀のボウルを手に持ったまま、びく、と身体を震わせたキナコ。

その耳が赤く染まったかと思うと、観念したようにコクンと頷いた。


「……でも、まだうまくできなくて……練習中、なの」


彼女は頼りない声で白状し、俺は後ろからボウルの中身を覗いた。

溶けた苺チョコレートは普通に美味しそうで、見た目には、何が失敗しているのかわからない。

俺は手を伸ばして、ボウルの中身を人差し指で少しすくうと、ぺろりと舐めてみた。


「あ! 失敗作だから、食べたらだめなのに……!」


首だけぐりんと動かして俺の方を向いたキナコが、怖い顔をして俺を睨む。


「甘くて、美味しいよ?」


もう一度チョコをすくってその指を彼女の口もとに持っていくと、彼女は顔を真っ赤にしてぶんぶん首を横に振った。


(……照れてる? やばい、可愛い)