下界に降りることも、天国に昇ることもできない彼の魂は、今までもそしてこれからも、この雪の世界に閉じ込められたまま。

その、理由は――。


「キョウさんの恋人だった女性……亡くなってしまったんですよね」


いつでもあまり感情のない彼の横顔に問いかけると、キョウさんは虚ろな青い瞳で遠くを眺めながら語る。


「ああ……そうだ。しかも、彼女は地上に未練を残さなかったらしく、俺たちのような存在にならずに最初から天国に昇ってしまった。俺の未練は彼女に関することだったから、それを解消する術を失った俺はこんな化け物みたいな姿になって、永遠に成仏できなくなった」


残してきた未練のためなら、俺のように地上に姿を現すことができる。

そして、それを成就させたら、安らかに天国に昇ることができる。

キョウさんはその対象を失ってしまったため、今俺たちがいるいわば狭間(はざま)の世界で生きていくしかなくなってしまったのだという。