「彼は……」


うまい答えが見つからずに言いよどんでいると、突然背後でガチャッと扉の鍵が開き、見知った友達の顔がそこから現れた。


「菜子~! 大丈夫!? どこもなんともない!?」

「早苗……! どうしてここが」


部屋に飛び込んでくるなりガバッとと抱き着いてきた早苗は、私の背中を優しくさすりながら語る。


「菜子がなかなか教室来ないから心配してたら、あのバカ男子どもが教室で話してるの偶然耳に入ってさ。“それにしてもまさか葉村が佐々木をとはな~”って声が聞こえたから、鬼の形相で問いただしたらここの鍵渡してくれたの」

「鬼の形相……」


それは……怖かっただろうな。

思わず苦笑していると、早苗は私を抱きしめたままで葉村くんに話しかけた。


「……アンタさぁ、菜子のこと巻き込んでおいて、まだ孤独ぶるつもり? いい加減にしてよね」


(早苗……? なんでそんなに怒ってるの? 孤独ぶるって……葉村くんだって被害者なのに、どうしてそんな言い方……)


早苗の腕の中で戸惑っていると、葉村くんが抑揚のない声で答えるのが聞こえる。


「今回のことは悪いと思ってる。……でも、僕には僕の事情が」

「じゃあその事情ってやつを、皆にちゃんと説明しなさいよ! そうでなきゃアンタを取り巻く環境は絶対変わらない。菜子もまた巻き添えを食うかもしれないんだからね」