見渡す限り真っ白な雪原。

その中心に一本だけ立つ“スノウツリー”は太い幹を持ち、枝の一本一本に雪が積もったその姿は、無数の白い花を咲かせているように見える。

ここは、俺たち“スノウ・ファントム”の住む世界。
なんだか小難しい呼び名だけど、ようは冬に命を落とした人間の霊のことだ。

下界に未練を残して成仏できなかったものがここに集まり、思い思いに未練を解消しようと努力している。

それがうまくいって天国に旅立った仲間も何人か見てきたけど……ときどき例外もいる。


「――キョウさん」


スノウツリーの根元に腰掛け、真下の雪を透かして下界の様子を見ているその人に俺は声をかけた。

四つ年上の彼は、こっちの世界での俺の兄貴分的存在。

白銀の髪を肩まで伸ばし、外国人のように青い瞳を持つキョウさんだけど、もとは俺と同じ日本人で、生前住んでいた場所も偶然近く、意気投合した。

こっちの世界に来たばかりのキョウさんは瞳も髪の色もごく普通の黒だったらしいけど、ある日突然、今の神秘的な容姿に変わってしまったのだそうだ。

そして、二度と下界に姿を現すことができなくなった。


俺はつい最近、キョウさん本人にそのきっかけを教えてもらって、彼のやるせない思いを、そしてキョウさんは永遠にこの世界で生きていくしかないという宿命を知った。

だから、心に決めたんだ。

キョウさんと同じ運命を辿ることのないよう、今までの、言いたいことも言えない、臆病な自分を卒業して、キナコに会いに行くことを。