スノウ・ファントム



山野くんが席から離れると、今まで彼が座っていた椅子にルカが座りなおした。

色素の薄い綺麗な瞳に正面から見つめられると、私は何から話したらいいのかわからなくなってしまう。


「キナコ」


適当な言葉を探し当てられないでいるうちに、ルカが私を呼んだ。


「山野にいろいろ聞いたんだろうけど……別に、生前の俺に同情しなくていいよ。後、キナコが罪悪感を覚える必要もない。事故は俺の不注意もあったから、自業自得」


何でもないことのようにふっと笑って見せるルカだけど、そんな風に思えるわけがない。

その日、私のあとを追いかけようなんて思わなければ、今も持田遥くんのまま、生きていられたのに……。


「まあ、それはそうかもしれないけどさ。でもさっき言ったでしょ? 俺は遥のときよりルカである今のほうがいいんだって」

「……また勝手に読んだ」

「だってキナコ黙ってるんだもん」


言い返せずにむう、と口を結ぶと、テーブルの向こうからルカの手が伸びてきて、私の頭をぽんぽんと叩く。


「まあ、なかなか理解しがたいかもしれないけど……遥のままだったら、こんな風にキナコに触れる勇気もなかった。だから、今のほうが幸せ。……意味、わかる?」


(なんとなく、わかるけど……)