夜九時を過ぎたころに塾は終わり、私と山野くんはすぐ近くのファストフード店で話をすることにした。

人目の多い場所を選んだのは、山野くんなりの気遣いらしい。

とはいっても、山野くんの見た目はヤンキーでもなんでもないし全然悪い人には見えないから、そこまで警戒はしていなかったけど。

外の冷たい空気が嘘のような、暖房と人の熱気、それからポテトを揚げる油のにおいが充満した店内に入ると、カウンターで二人とも飲み物だけを注文した。

それを持って、外がよく見える窓際の席に向かい合って座ると、山野くんが申し訳なさそうに切り出した。


「ゴメンね、急に。でも……今日は“あの日”だし、そのせいなのか昨夜アイツが久しぶりに夢に出てきて、なんとなく、佐々木さんと話さなくちゃいけないような気がして」

「アイツ……。塾で、私の後ろの席にいたっていう……?」


山野くんはウーロン茶をストローですすり、うなずく。


「うん。そいつの名前……持田遥(もちだはるか)っていうんだけどさ、佐々木さんにずっと片思いしてたんだよね。持田は超が付くほどヘタレで、佐々木さんに対して何にもアプローチしてなかったから、知らなかったと思うけど」

「持田、は、るか……」


私は口の中で、確認するようにその名を呟いた。


(偶然……? でも、なんとなく、そうじゃない気がする。山野くんが言っているのは、きっと……)


でも、“久しぶりに夢に出てきた”ってどういうことだろう。山野くんはその遥くんと同じ学校なわけだから、毎日会っているはずじゃないのかな。

私はオレンジジュースをコクリと飲んで、山野くんの次の言葉を待つ。