その日の放課後。

『菜子の好きな人が見たい』

そう言って目を輝かせる早苗をなんとかなだめて、いつも通りひとりで塾に向かった私。

オレンジと群青が混じり合う冬の夕暮れのなか、冷たい空気に肌を刺されながら歩いている途中、ときどき辺りを見回してルカの姿を探した。

でも、どこにも彼は見当たらない。


(土日も会ってないし、そろそろひょっこり顔を見せる気がしてたんだけどな)


今日も会えなかったことに少しがっかりしている自分に気付き、でもなんで?と自分で自分がわからない。

まだ出会って一週間ほどの他校の男の子の行動範囲なんて予想がつくはずもないんだから、気にしたってしょうがない。ルカにだっていろいろ用事とかあるだろうし。

気を取り直して塾の建物に入り、教室でカバンから筆記用具を取り出していると、見覚えのある制服の男子が私の席に近づいてきた。


「あの……佐々木、菜子さん?」


私は目をぱちぱちと瞬かせ、声の主を見上げる。

彼は短髪で、少し吊り上がっている目は細く、ルカと同じ高校の制服に身を包んでいる。


「……そう、ですけど」


きょとんとしながら答えると、その男子はほっとしたように表情を緩ませ、ちらりと私の背後を見たかと思ったら、私に聞く。


「一年くらい前まで……毎日佐々木さんの後ろに座ってた、俺と同じガッコの男子のこと、覚えてる?」


(私の、後ろ……?)