勝手に色々と予想しはじめた早苗は「安藤? 今井? 江口?」と、出席番号順に男子の名前を挙げ始める。


(これ、全員言うつもりなのかな……。あ、そうだ。塾の人ってことにすれば……)


目的地である理科の実験室に着いた後も男子の名前を次々口にする早苗に、私は小声で告げる。


「あのね……実は、塾にいる人で……中央学院(ちゅうおうがくいん)の人なの」


軽い気持ちでついた嘘だったけれど、頭の中にはパッとルカの姿が浮かんでいた。

中央学院と言ったのも、ルカがその学校の制服を着ているからだ。

早苗は私の告白に目をぱちぱちと瞬かせたあと、にんまりと笑う。


「なんだ~もっと早く教えてくれればいいのに! 菜子にもついに好きな人かぁ!」

「こ、声おっきいよ……」


興奮する早苗を苦笑しながらなだめているとチャイムが鳴り、黒板の前に立つ先生が「席について」と指示をする。

早苗とは席が離れているのでとりあえずホッとしていると、どこからか視線を感じて私は辺りを見回した。


(……葉村くん?)


そのとき、一瞬だけ目が合ったのは、実験室の端にいた葉村くんだった。

彼は私と目が合うとすぐにパッと下を向き、長い前髪で表情を隠してしまう。


(……偶然、かな)


少し気になったけれど、私は自分にそう言い聞かせ、実験の説明を始めた先生の方に向きなおった。