早苗は別のクラスの中山(なかやま)くんという幼馴染の人がずっと好きで、その中山くんとめでたく結ばれたのだそうだ。

早苗自身はずっと片思いだと言っていたけど、ふたりが廊下で会った時なんかにふざけあう姿ははたから見たらすごく微笑ましくてお似合いだったから、きっと両思いだったんだろう。


「早苗から告白したの?」

「うん。金曜日の放課後、たまたま帰り一緒になってさ……なんか、雰囲気に流されて」


はにかみながら当時の様子を語る早苗が幸せそうで、なんだか私までうれしくなる。

そのままほんわかした気持ちでいた私に、早苗が突然質問してくる。


「菜子は? 好きな人、いないの?」

「えっ……? うん。いない」

「何その間! 本当はいるんでしょ」


鋭い突っ込みにちょっと動揺して早苗から目をそらすと、無意識に視線が移った先には、ヨロヨロと前を歩く葉村くんの背中。

早苗はそんな私を見て、冗談交じりに尋ねてきた。


「……え。まさか、葉村ってことはないよね?」


その口調に、“ありえない”っていう気持ちがありありと見える。

だから……たとえ仲のいい友達でも正直な気持ちを話すことなんてできない。


「うん……ちがうよ」

「じゃあ誰だろー。菜子ってあんま男子と話してるとこ見ないしなー」