俺は必至で笑いをかみ殺して苦しいくらいだったが、幸いハト胸にはばれずに済み、その日の授業は無事に終わった。


(今日はまぁいつもよりはダルくなかったからヨシとしよう)


授業をテキトーに受けるのは相変わらずだけど、塾で笑える出来事があるなんて初めてだし。

そんなことを思いながら帰り支度をして席を立った俺に、ひとりの男子が声をかけてきた。


「持田……だよな?」

「え?」


声のした方を振り向くと、どっかで見覚えのあるキツネ目で背の低い男子がいた。

俺と同じ制服を着ているし、確か……いつも同じ教室の中にいたような。


「えっと……同じクラス……だっけ?」

「うわ、覚えてないとかひでぇ……俺、山野だよ。一学期はずっとお前のひとつ後ろの席だったっつの」

「……ゴメン」

「いや別に怒ってねぇけど。なあ、さっきなんで笑ってたの?」


いきなりフレンドリーに接してきた山野に俺は少し面食らった。

実は、学校生活自体に投げやりな俺には親しい友達がいなかった。

同じ中学から来た同級生は女子だけだったし、新しい人間関係を築くのにはエネルギーが要るからと、積極的に周囲に溶け込もうとしなかったから。

自然と孤立していった俺は、別にそれでもいいような気がしていたが、山野に声を掛けられて、ちょっと喜んでいる自分がいるのにも気づいていた。