そして、授業についていく意思を最初から放棄したようにテキトーな態度で受講する俺を、ハト胸は何度となく呼び出しては肩をたたいて励ました。


「持田(もちだ)。私にもきみのような時期があったよ。なんだかモヤモヤとして、勉強なんかして何の意味があるのかってな。でも、それを乗り越えればキミも私のように、何事にも全力を傾ける、真摯な大人になれるぞ」


(……いや、心底なりたくないし)


内心そう思いつつ、反抗するのも面倒くさいし、とこれまたテキトーにやり過ごして、俺は仕方なく塾を続けていた。

そのうち二学期が始まると、塾に新しい生徒が入ってきた。

同じ学校の奴らが数人と、俺が入りたかった公立高に通っているらしい女の子が一人。

彼女はいつも俺のひとつ前の席に座っていて、俺が着ることのできなかった制服(まあ、女子のスカートはもともと履けないけど)を着ているその後姿を、ちょっとだけ妬ましい気持ちで見つめる日々が続いた。


――そんなある日のこと。


(なんか、絵、描いてる……)


塾の授業中、ハト胸の流暢な英語をBGMにしてぼんやりしていた俺は、前に座る彼女がノートの端に小さな絵を描いているのを見つけた。

それはどうやら人間のようで、体つきは逆三角形。彼女はその口もとに吹き出しをつけると、こう書いていた。


“I am pigeon heart”


(ピジョン……鳩……そしてハート……お、俺と同じこと考えてる人がいた! なんか文法的におかしい気もするけど、ダジャレまで掛かっててやばい)