三月中旬のある日、私は塾のなかにある小さな教室で須藤先生と面談していた。

この春から受験生になるにあたり、進路のことについて私と同じ学年の塾生は全員がこの面談を受けているのだ。


「スクールカウンセラー、か。楽な道ではないが、佐々木がそう決めたのなら私は全力で応援するよ。ご両親、学校の先生ともよく相談して、心理学を学べる大学のなかでもどこを志望校にするか、慎重に選んでいこう」

「はい」

「でも、急にどうして進路が明確になったんだ? いや、もちろんいいことなんだが、周囲の友達の真似だったり、親の言うなりだったり、本人の意思とは無関係のこともあるのでな、いちおう確認のため皆に聞いている」


最近では須藤先生のことを変に斜めから見るのも卒業していて、親身になってくれることを素直にありがたく思えるようになった。

私がちょっと先生のことを舐めているとわかっていて、それでも態度を変えたりせずに接していたことを知ってから、彼を見る目が変わったのだ。


「……持田くんの、おかげです」


だから、須藤先生になら話してみよう……と、私は彼の名前を告げた。

先生は、目を丸くして私を見る。


「持田……?」

「はい。先生は、幽霊の存在を信じますか?」


椅子の背もたれに身を預け、腕組みをしたかと思うと、ううん、と唸ってしまう先生。

いくら先生でも、さすがに信じてくれないかな。ちょと不安になるけれど、私は続ける。


「私……一か月くらい前に、持田くんと過ごした時期があったんです。そのときに、見える心と見えない心。言葉にできる気持ち、できない気持ち。言わなくても伝わっているとわかっていても、どうしても声に出したい気持ち……そういうこと、たくさん考えさせられて」