ひとつの決心を固めた俺は、屋上へと向かった。

思ったよりも静かで、穏やかな気持ちだった。

キョウさんはきっと、俺がこの道を選んだことを怒るだろう。

でも……俺は決めたんだ。キナコの願いをかなえてやるって。


ギイ、と重い扉を開ける。まぶしい西日が差しこんで、一瞬目がくらむ。

明るい視界に慣れた目がとらえたのは、屋上の手すりの向こう側に立つ葉村と、その少し手前でなにか必死で叫んでいるキナコだった。

俺は屋上に足を踏み入れ、大股で二人のもとへ近づく。

先に気付いたのは、葉村の方だった。目を見開き、戸惑うように声をこぼす。


「ルカ……どうして……」


その言葉に反応したキナコが振り返ったけど、俺は彼女の脇を素通りして、葉村のいる方へと迷わず足を進めた。


「なんで、来たんだよ……。来るなよ。俺が死んで、きみが生きてた方が世界はうまく回るんだ」


切実に訴える葉村だけど、俺は構わず彼の正面までずいと出る。

そしてゆっくり首を横に振ると、手のひらを“ルカ”の体にかざした。


「……世界のことなんて知らない。俺はただ……キナコを悲しませたくないだけだ」


静かに告げると、動揺した葉村が俺の手を振り払う。