葉村理久の姿になった俺は、人の心を読む能力を失っていた。

だから、俺のことをどう思うかと聞いた時の返事を先に読んでしまうこともできなかったし、葉村を助けに行くといったときのキナコの気持ちも見えなかった。


(見えない……。本当に?)


キナコのそばにいるとき、前にも一度、思ったことがある。

俺は、自分の能力を過信して、なにか勘違いしているんじゃないかって。

生きていたころだって、この能力はなかったんだ。そのときは、どうやって人と関わり合っていた?


……わからないから、思いやるのだ。

見えない気持ちは、なんとか自分の経験から予想して、それが当たるときもあれば外れることもあるのが人間関係。

時には傷つけてしまうこともあるけど……相手の気持ちは今どうなんだろうって、考えるのをやめたら、人間関係なんか築けない。

今、血相を変えて教室を出て行ったキナコの気持ちも……俺は、考えることから逃げているだけだ。


本当は、わかっている。

臆病だった俺によく似ていて、でも優しくて素直な、キナコ。

後ろの席から。空の上から。ずっとずっと見ていたんだ。

葉村を助けたいと思いながら、何もできない……そんな自分をきらいだって否定しては、落ち込んでいたキナコ。

そんな彼女が、今、迷わずここを飛び出していった。

それは恋愛感情からなのか、友達としてなのか。

今はそこまで難しいことまで考えなくてもいい。

とにかく彼女は葉村を死なせたくないのだ。

ここに、同じ姿かたちをした俺がいても……。


俺は……俺の取るべき行動は……。