それから恭弥さんは、余命と言われていた一か月を待たずに亡くなってしまった。
雪が絶え間なく降りしきる、寒い冬のことだった。
お姉さんはそれから大学に行かなくなり、葉村くんと分担していた家事も一切やらなくなった。
ただ窓辺でぼうっとして、空を見上げていることが多くて。
「大学……そろそろ、行かなくていいの?」
春になり、年度が変わる前に一度、そう聞いてみたとき。
「大学? そんなところ行っても、キョウちゃん、いないもん」
すがすがしいほど邪気のない笑顔で言い切る姉を、葉村くんはなぜか怖いと思った。
この人は、心の大事な部分が破綻している。そんな危機感も覚えた。
でも、自分がどんな言葉をかけても彼女には響かない。
“理久にはわからない”と言われたあの日から、ずっと心に刺さったままの刃。
それは根を張るように葉村くんの胸に居座り続けて、彼の口を結ばせてしまうのだ。
それでも、お姉さんを心配をせずにはいられない。
もしかしたら、恭弥さんの後を追うような真似をするんじゃないか。そんな不安もあり、家にいる間はずっとお姉さんの一挙一動に細心の注意を払った。
しかし夏休みに入り、一日中お姉さんに目を光らせていなければならなくなった葉村くんは、そんな日々に少し疲れてきてしまった。
家にいるばかりなので宿題なんてあっという間に終わっていたし、少し息抜きがしたくなった。
そして、近所の図書館に出かけた。
ほんの少しの時間でいい。お気に入りの小説を読んでその世界に浸り、お姉さんのことを忘れたかった。

