それでも交際期間が長くなるにつれ、お姉さんは自分が彼の恋人であることに自信を持てるようになり、みるみる綺麗になった。
そして、最初の頃よりずっと、恭弥さんを好きになっていった。
「理久……今日、彼のところに泊まってもいい? 変な意味じゃなくて、キョウちゃん、風邪ひいて熱あるみたいだから、心配で……」
「別に僕に許可を取る必要ないでしょ。ていうか、姉さんもう大学生でしょ? 変な意味でもぜんぜん驚かないんだけど」
「生意気……」
「姉さんが幼いんだよ。にしても“キョウちゃん”って……」
「い、いいでしょ別に!」
そんな風にお姉さんをからかうのも日常のありふれた会話になるくらい、彼女と恭弥さんの仲は順調だった。
しかし。交際が一年と数か月経った頃、お姉さんはなぜか泣きながら家に帰ってきたのだそうだ。
もしかして、別れてしまったのか。葉村くんはそんな風に勘ぐっていたけれど、事実は違った。
「ずっと、風邪が治らないと思ってたら、風邪じゃなかったの。……若年性の、肺ガン……。別の場所にも転移があって、キョウちゃん、もう、あと一か月しか、生きられない……っ」
なんとか弟にそれだけ伝えたお姉さんは、わあああ、と床に突っ伏して泣き崩れた。
あんなに幸せそうだったお姉さんの変わり果てた姿に、葉村くんもショックを受けずにいられなかった。
何か言葉を掛けなければ。そう思い、お姉さんの肩にそっと手を置いて、静かに諭す。
「いま、きっと一番つらいのは恭弥さんだよ。恭弥さん、姉さんがそんなに泣いているのを見たら、もっとつらくな――」
「気休め言わないで! 理久にはわからない! 私の気持ち……っ」
自分の言葉が気休めであることくらい、葉村くんにだってわかっていた。
でも、大好きな姉に正面から否定されると、ずぶりと刃が刺さったように胸が痛くて、そしてその刃はなかなか抜けなかった。

